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CAD関係
・CADを使った靴型デザイン(その1)【従来の方法との違い】
・CADを使った靴型デザイン(その2)【振り角とヒールカーブ角度】
・CADを使った靴型デザイン(その3)【ヒールのパラメトリックデザイン】
・CADを使った靴型デザイン(その4)【再現性と可逆性】
・CADを使った靴型デザイン(その5)【ルール化とリバースエンジニアリング】
・CADを使った靴型デザイン(その6)【靴型CADの運用モデル】
・CADを使った靴型デザイン(その7)【靴型のパラメトリックデザイン】
・CADを使った靴型デザイン(その8)【3DCADと3Dプリンタの活用】
・CADを使った靴型デザイン(その9)【3Dデザインのその先】
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・靴作りの用語(その1)【革の種類】
・靴作りの用語(その2)【靴の部分の呼び方】
・靴作りの用語(その3)【見えない部品】
・靴作りの用語(その4)【甲部分の部品】
・JIS規格の足囲と靴型のボールガースの関係
・かがみ式とは?(What? Kagami Method)

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・ヒールとれ問題の対策について(その1)【問題の把握】
・ヒールとれ問題の対策について(その2)【故発生の要因の考察】
・ヒールとれ問題の対策について(その3)【対策】※専用センタービス、補助釘の御案内あり
・ヒール強度について

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2016年07月04日

【専門向け】ヒールとれ問題の対策について(その3)

対策
●まずバランスを考える
物は負荷が大きくなっていくと、いつか弱いものから壊れてゆきます。
理解されにくいのですが、いくつかの部品の組み合わされているものは、一方を頑丈にすると他の部品が壊れ易くなります。
負荷が分散できず弱いところに集中するためです。  

剛性の高い(曲がりにくい)ヒールを使うと、中底やビスの負担は大きくなります。
硬い中底を使用すると、ヒール材の負担は大きくなります。
試験結果やクレームデータを見て、まずは弱点を補強し全体のバランスを取ることが必要といえます。


●作業方法
作業としては靴とヒールをセットしビスを打ち込むだけですが、このとき所定の位置に正しい角度で入れ、ちょうど良いタイミングでリリースすることが重要です。

正確に位置決めするには、穴の開いた治具を使う方法、靴型に穴を通しておく、手で測りアタリを付けておくなどの方法があります。
穴の開いた治具を使う場合、角度も同時に決めることが出来ます。
ビスを打つ位置は中底の踵後端からの距離で表します。
角度は中底面に対して垂直に入れる事が最も強い結合になります。

リリースのタイミングは機械のリミットスイッチを使う場合も、ボール盤で手の感覚で行う場合も、早めのタイミングから徐々に遅らせてゆき、ちょうどのタイミングを見つけます。
遅すぎる場合、ビス頭部が深く沈まないのでちょうど良い時との見分けがつきません。
速すぎる場合はビス頭部が中底より浮いているので見てすぐわかります。浮きは後で手でねじ込めばよく、不良品になりません。

手の感覚では難しい場合、トルクをコントロールする方法もあります。
つまりヒール材を破壊するほどの回転トルクがかかった場合、ボール盤側でモータのトルクを逃がしドライバーの回転を止めるやり方です。
ボール盤のVベルトを緩めにして滑らせること、トルクソケットを使う(ボール盤のチャックとドライバーの間に組み込めるものがあるかどうかは確認しておりません)などが考えられます。


●部品の設計改善
部品設計を変更して安全性をたかめる(仕損率を減らす)ことができます。

中底抜けが発生する場合、中底内に抜け止めの硬いボードを挟んで補強するか、ビス頭部の径を大きくします。

ビスがヒール芯に当たって損傷している場合、ヒール芯を短くするか、上部が開いてビス通路を開ける形状のヒール芯に変える方法があります。
まずは、ヒールを中央で切断して、ビスの収まるスペースがあるかどうか確認してから、ビスを打ち込む位置を決めます。

ヒールからビスが抜ける場合、ねじ接合部分を強化することが出来ます。
図のようにビスのねじ山を薄くし間隔をあけることで、ヒール材の削られる容積を少なくしヒール材を厚く残すようにします。
これによりせん断に対して強い構造になります。

ネジ図_03.jpg


つまり、一般に使われているタッピングビスや木ねじはねじ山が厚く、ヒール材を必要以上に壊しているといえます。
コースレットねじは、ねじ部が薄くこの点優れていますが、頭部の容積が大きく中底側を大きく壊してしまいます。
当社はこの点を改良した特注ビスを使用しています。


●二重の安全性
センタービスの周囲には4〜5本の釘をヒールのまわり止めの意味も兼ねて打たれています。
補助釘と呼ばれていますが、一般に使われているものは、保持力(抜けにくさ)が弱くヒール取り付け強度の向上にあまり役立っていないようです。

知る限りでは、市販されているものは、スクリュー状になっていますが、らせん傾斜が極端に急なものと、緩やかなものの2種類です。
急なものは、ヒール材は傷めずに入りますが、引き抜こうとするとらせん傾斜に沿って滑り回転しながら抜けるので、低い一定の抵抗があります。
緩やかなものは、抜はじめだけ、抵抗がありますが1ミリ程動いたところで、かみ合っているヒール材がすべて壊れ、全く抵抗が無くなります。
これは、前述のビスが抜ける状態に類似しています。
低い保持力を維持するか、瞬間的な高い保持力を選ぶかのどちらかになりますが、どちらもヒールを留めるには向いていない様です。

そこでABS樹脂と相性の良いヒール用のらせん釘をつくりました。
比較的条件の良い7センチヒール(オワンの長さがさほど短くないマクリヒール)でセンタービスなしで、この釘を4本打ち、取り付け強度試験を行いました。
結果,約500Nでした。
センタービスなしではかなり良い数値です。
基準値にはもう少しなので、接触面積を増やすため釘を1番手太くしたものつくりました。
全く同じ条件で、再度試験したところ600Nを少し超える結果となりました。

補助釘はビスと違い作業のバラツキの要素が少なく、打った結果が安定しているので、基準値を超えたことは大きいと思われます。
センタービスでの不良が仮に1000分の1発生したとしても、補助釘で更に1000分の1に抑えることが出来れば、100万分の1になります。
つまり補助釘の保持力を高めることにより二重の安全性を確保することが出来ます。

(実際、当社ではビス折れ事件を除くと5万分の1程度あったヒールとれ事故が、この補助釘を使い始めてから3年間、1例も起きていません。)


後記
長い文章になりましたが、私の考えを正しく理解してもらうため、詳しく書いてみました。

釘を作るときに初めて知って驚いたのですが、釘を実際に製作する会社は減少が進み、とうとう東京近辺には一社もない状況になったそうです。
ホームセンターなどで売られている釘類はいったいどこから来るのでしょうか?
過去にビス折れ事件も経験している私としては、ヒール取り付けの命綱ともいえる釘類については、出所、材質が分かっている国産品を安心して使いたいものです。

今の機械はセンタービスと補助釘を同時に打つことが出来ます。
別々に打つのと比べれば工程は半分になり、製造コストは下げることが出来ます。
しかし、これまで述べてきたようなヒールの取り付け方はできません。

何事でも、技術革新でもない限り、低いコストを求めれば、高いリスクは付いてくるものと思います。
しかし高い安全性があっても、高い価格で販売できるものでもありません。
その辺がメーカーの難しいところです。

当社は日産200足たらずのメーカーです。
このノウハウを一社で独占していても、あまり社会に役立つ事にはなりませんので公開することにしました。
常々感じますが、節度のない盗用や問題の責任を他人に転嫁しやすいなどの後進性は、自己の向上の妨げになるだけと思います。
本稿の適用や部品の使用に当たっては自己責任でお願いします。

尚、文中の自社開発のセンタービス、補助釘も国内に供給(販売)することにしました。
多くのご同業に使ってもらえると思い在庫しました。ぜひ試してみてください。
(注:補助釘は15番の線の太さです。中打ち機の釘送りのレール幅の調整が必要な場合があります。)

下記資材業者で店頭販売しています。

ムラヤマ株式会社
Tel: 03-3876-1841
〒111-0032 東京都台東区浅草5−42−9

◇コーススレッド サラ ユニクロ 4.1×20o (小箱:1000本、ケース:10000本)
◇コーススレッド サラ ユニクロ 4.1×22o (小箱:1000本、ケース:10000本)
◇平頭タイト釘 #15×18o (小箱:2kg、ケース:20kg)


IMGP1970.jpg IMGP1975.jpg
 ▲コーススレッド サラ ユニクロ       平頭タイト釘


posted by 株式会社 パイン at 16:20| Comment(0) | 靴作り | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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