靴の部分の呼び方
靴は大きく、底と甲に分かれます。甲は底の上にありますから、上下の関係にあります。
甲の一番上は足を入れるため開いていますが、上の縁の部分を履き口あるいはトップラインと呼びます。
真横からみた踵の後端の丸みをヒールカーブと言います。
前後の部分を指すには、足先から、つま先(toe),腰(weist),踵(heel)となります。
この辺から、別の呼び方が沢山でてきます。何が正しいと云う事ではなく、職人言葉も含め慣習的にいろいろな呼び方がされているのです。
婦人靴は位置関係や形のイメージから人体のパーツの呼び方も使われます。
つま先は「頭」「トウ」、単に「先」、腰は「サイド」、踵は「ケツ(尻)」とも呼ばれます。
「腰」は踵を含めた後半部分(backpart)の意味にも使われます。この部分を逆に「踵」と呼ぶ人もいました。
横方向は足と同じように、内側、外側、「内」、「外」と呼びます。
これを右側、左側と呼ばれると、右足か左足かで意味が変わるのでほとんど意味が伝わりません。
「ヒール(heel)」は踵の下になる靴の部品(パーツ)もこう呼ばれます。
足の踵部分とは異なるものなので まぎらわしく、何かほかの名称が付けられなかったのかと思ったりします。(英語ではheelしかないようです。イタリア語ではtalloneとは別にtaccoという言葉があります。)

靴のパーツ(部品)の呼び方 (1)
底材
ヒールについては述べた通りですが、地面に接する先端部分は「化粧」、「トップリフト」、「リフト」などと呼ばれ、合成ゴム、ウレタン樹脂、(昔は革)など擦り減りにくい材質でできています。
「本底」は「表底」「底」「アウトソール」とも呼ばれ、地面に接する板状の部品です。
材質は合成ゴム、革、EVAスポンジ、発泡ウレタン樹脂などですが、発泡ウレタンは経年劣化が早く、数年でボロボロになるので、長期使用の靴には向きません。
滑り難くするため表面に凹凸の模様のあるものがあります。
これは金型を使い、ゴムや樹脂を固めるときに成型したものです。
これを柄物、ライン底、意匠底などと呼んでいます。
表面の平らなものは無地などと言われますが、合成ゴム材は金型を使って作られる(焼く)ので、細かい柄(シボ)の種類があり、マット感など、見た目がそれぞれ異なります。
本底の縁の部分を「コバ」(=木端?;木材用語:板材の側面の切り口の事)といいます。
コバは平らなもの以外にデザイン的にいろいろな形があり、呼び方があります。
まっすぐ平ら「平コバ」、丸みのある「丸コバ」、縁に向かって薄くしてゆく「ヤハズ」、凹凸の筋目を付ける「角コバ(つのコバ)」、「溝コバ」。
紳士靴に多いのですが、甲の部分より本底が一回り大きく出ているものがあります。これを「コバ出し」と言います。
甲よりはみ出した部分の上面には、ギザギザの模様やミシン糸で装飾されたテープ状の革やゴムが巻かれています。これは「押し縁(ぶち)」と言われています。
「コバ出し」、「押し縁(ぶち)」のミシン飾り、などは靴の製法上、必然的に施される靴もありますが、デザイン装飾のために付けられているものも有ります。
一部の靴の底面にある、ミシンステッチ(糸の縫い目)も同じことが言えます。(製法によっては、実際に甲と底とを縫い付けていて、糸を見せているものがあります。)
金型を使って底全体の形を同時に成型したもの(ビジネスシューズと呼ばれる靴に使われる様な底)をモールド底と言います。
後でコバを削ったりする加工がなく大量生産向きですが、材質はほとんどが発泡ウレタンです。
ヒール
ヒールの呼び方は、形から分類するものと、表面のカバーの方法を表すものがあります。
構造(形)上では、大きくは、「まくりヒール」と「ぶっつけヒール」に分かれます。
まくりヒールは婦人ハイヒール靴によく使われ、本底がヒールのあご(前面)まで繋がって張り付けられているものを言います。
ぶっつけヒールは本底の上に乗るように取り付けられ、あごの部分も側面と同様にカバーされています。
靴に取り付けられる面をオワンと言いますが、靴に隙間なく取り付けるため中央が皿状に窪んでいます。
踵の据わりを良くするため、踵部の底を窪ませた靴に合わせて、オワンの窪みが特に深いものは、カップヒールと言われています。
踵にかかる体重を支えるトップリフトは、歩行の安定性を確保する上で、位置と大きさの適度なバランスが必要です。
大きさはヒールの低いものは大きく、高くなるに従い小さく(ヒールは細く)するのが歩きやすいとされています。
スタイリング優先のため、トップリフト位置を敢えて前方(つま先)に寄せたものをセットインヒール、後方に寄せたものをセットバックヒールと言います。
針のように細いものをピンヒール、途中から下に向かって広がっているものをフレアヒール、逆円錐形の形のものはコーンヒール等々いろいろな呼び方がついています。
ヒールは乳白色のABS樹脂でできているものが多く、婦人ヒールパンプスでは、外観の良さから革でカバーしたものが主流です。
これを「革巻き」、「共巻き」(甲に使っている素材と同じものを巻くの意)」と呼んでいます。
革を積み上げた模様のあるものは「スタックヒール」と呼ばれ、革底用の革を積み上げスライスしたシートを巻いてあります。
硬い革質をさらに硬化剤で締め、ワックスで磨いているので、表面が硬く痛みにくい特徴があります。
スタックヒールの柄をプラスチックに直接、プリント塗装したものを「プリントスタック」と言っています。
「スタック(積む)」とは元来、革を積み上げてヒール部品を作ったことに由来していますが、外見をみせるだけでなく本当に革を重ねているものを「積み上げ」と呼んで区別しています。
ヒールのカバリングは、金属をめっきした「めっきヒール」、カラー塗料を塗った「塗装ヒール」などもあります。
名称の付け方のおもしろさ
靴の用語の話はまだ続きますが、この辺で私の感じている事をお話しします。
日本での靴用語は、外来語を基にしているものも多いのですが、言葉の定義は国内だけで通ずると思っていた方がよいでしょう。
量産化やコストダウンの要望があり、新しい素材や技術が開発され、次々に生まれてくる代替え品に新しい呼び方をしていくうちにこうなったのでしょう。
「スタック」と「積み上げ」は同義語ですが、ヒールでは使い分けられています。
「レザー」と「革」も意味は一緒ですが、「レザー」は合成皮革も含めた意味で使われたり、むしろ合成皮革のつもりで使っている人もいるのです。
「革」といったら誰も合成皮革は想像しません。
「ケミカルレザー」を省略したからという理屈も成り立ちます。
語源は同じでも、漢字表現とカタカナ言葉に微妙に意味を変えて使い分けているのです。
ともかく日本の外来語を省略した造語のつくりかたは面白いです。
「パーソナルコンピュータ」という英語が入ってきました。日本では「パソコン」と省略して一般化してしまいました。
米国での略語は「PC」です。最近は国際化が進んだのか日本でも「PC」が使われるようになりました。
「エコロジー」も「エコ」、「エゴイズム」は「エゴ」。
語彙の多い英語圏では発音を途中でやめたら、意味が分からなかったり、別の意味になったりしそうです。
つまりこれらは立派な日本語なのです。
革の呼び方で「クロコ」という言葉が使われます。「黒子」?ではなくてクロコダイルという鰐(ワニ)の種類を指しています。
しかも前にも述べた、鰐革に似せた型押し革の意味で誤解なく通じています。
今は本物の鰐革はあまりありませんが、もし本物であれば「(本物の)鰐革です!」と言うでしょう。
共通して言えることは、漢字で表している名称は「本来の・・」とか「本物」のニュアンスがあり、カタカナことばになると、「新しい・・」の一方「イミテーション」の意味が含まれてくる感じがします。
靴の用語だけでしょうか?