靴に関する用語は、細部まで統一した辞書が無くて(当たり前かも知れませんが)ひとそれぞれに使い方も違っています。そのため、靴のことで、他人とコミニュケーションをとるのは結構大変です。
新人が入社すると、私はまずこのことを話します。
「同じものでも大概3通りの呼び方があるので、2つくらい知っていないと会話が理解しにくい。」
「材料の名前が、靴のパーツ名と混同して使われているので注意。」
私は学者ではないので、正しいことばかりではないと思いますが、いままでに知ったこと、感じたことを述べます。
詳しい方、異なる認識を持つ方など、ご意見があれば投稿をお願いいたします。
革の種類の呼び方は...
先ずは革の裏と表ですが、裏側を床面、表側をギン面と呼んでいます。
床は革の土台部分の繊維層、ギンは皮膚の表層の事を云います。ギンは「銀」の文字を充てるのが正しいようです。(銀は皮膚の状態を示す用例がありました。)
皮革産業の「皮」と「革」はどちらも「かわ」と読みますが、「皮」は生の動物の皮膚のこと、「革」は皮をなめし加工して靴やかばんなどに使える材料にしたものと定義されています。
なめし加工(鞣し加工=鞣製)とは皮の動物性繊維を洗い出し、金属やタンニンを浸透させて、腐らないようにし、染色して表面をきれいにに仕上げることといえます。
革の動物繊維は靴の素材として他にない大変優れた性質を持っています。
靴用に使われる革は、牛が大半ですが、山羊(ヤギ)、羊などもあり、裏革(足に触れる側の材料)としては、馬、豚、山羊がよく使用されます。
そのほか雑貨用には、使えそうな動物の皮は、ありとあらゆるものが革に加工されています。
鰐、亀、トカゲ、蛇、蛙、ダチョウ、ダチョウの足!カンガルー、鹿、サメ、鯉、ウナギ!数え上げるときりがありません。毛皮も含めるとさらに増えます。
▲蛇革 ▲トカゲ革
呼び方ですが、生きているときの動物の英語か日本語の呼び方をそのまま使っているのが常です。革の販売業者が便宜上付けた呼び方もあります。
よく使われる牛についてですが、英語で雄牛はOX、雌牛はCOWと言いますが、これは使いません。畜産業の専門用語なのでしょう。calf(カーフ;仔牛)、kip(キップ;若い牛)、steer(ステア;去勢成牛=雄牛)などと分類して呼びます。詳しいことは専門用語辞典で調べてみてください。
羊では、大人の羊がsheep,仔羊がlamb、山羊では大人の山羊がgoat,仔山羊はkidといった具合です。
また、小動物の皮革はskin、大きな牛、馬などの皮革はhideと分類されています。
漢字文化圏によるものでしょうか、男女差別の少ない日本だからなのでしょうか、種の名の前に雄⋯、雌⋯とか仔⋯をつけたり、何々蛇とか言って、どのような動物なのか分かりやすいのですが、雄と雌、親と仔で全く呼び方の違う欧米の言葉は我々にとってややこしいですね。
ついでに靴業界でなじみの名称で、bend(ベンズと言われています;複数形?)は臀部の革のことで牛の硬くタンニン鞣ししたものは革底として使われます。馬になると、cordovan(コードバン)と呼ばれ高級ランドセルやベルトに使用されます。馬の床の繊維は丈夫で裁断の際に切れにくいほどの粘っこい強さがあります。
牛原皮のほとんどは食用肉の副産物ですが、成長年数の多い方が、毛穴あとが大きく、肌も荒くなり、傷痕も多くなるので、鞣した革の肌目にも表れてきます。
calf(仔牛革)が肌目がきれいで高級革とされる理由です。肌目がきれいでない皮を人工的にcalfに似せて表面加工した革をガラス(ガラス張り)といいます。
ガラスは荒れた革の銀面を平らに削りとり人工的なギン(樹脂被膜)を作るのですが、その際 ガラス(鏡面仕上げの鉄板)に張り付けて固めたことがこの名の由来です。表面の樹脂が硬く、天然のギンが無いことから、靴の履き皺(しわ)が不自然(きつく出る)に見えるのが欠点です。
似たようなもので、最近はフィルム張りといったものもあります。表面を薄く削り薄いフィルムを張って、仕上げたギン面の代用をする手法で、ギン面層をある程度残してあり、銀付きのスムース革とよく似ているので、あまり区別されていません。
エナメルは革のギン面に透明樹脂(ウレタン樹脂)をコーティングしたもので、光沢があります。光を反射し綺麗なことから、靴にもよく使用されます。
樹脂コーティングしていても、ギン面を残してきれいに仕上げたエナメルは、革の持つ風合いがあり合成皮革のエナメルとは格段の違い感じられます。
ただ気を付ければならないことは、色の移行(接触しているものから色素を吸い込むこと)と経年変化(素のまま放置すると数年でべた付くことが多いこと)です。
靴を履けば必ず、履き皺は出るものですが、ギンを削ったり、熱などで痛めてしまったものは、不自然な皺になりやすいものです。
爬虫類の革は希少性もあり高価です。亀、トカゲ、ワニ等々。勿論本物も高級ブランドで使われている事もありますが、ほとんどがイミテーションです。牛や豚に爬虫類の肌の模様の金型をおして本物に似せています。これを「型押し」と呼びます。金型は本物の革の凹凸を鉄板に転写したもので欧州から、流行などを予測して輸入しています。このことは先行投資になりますので、需要が低迷したり、加工業の収益が下がると新柄の金型は入ってこなくなります。
起毛素材には、いくつかの種類があります。suede(スウェード)は床面を細かく毛羽立たせこちらを表にして使います。羊、山羊が多く使われ、手触りが良いことからシルキースェードとも呼ばれ、今では単にシルキーと呼ばれることもあります。
nubuck(ヌバック)はギン面を毛羽立たせます。スウェードほど起毛感はありませんがマット感のある素材になります。
velour(ベロア)は床面をスェードよりも荒く毛羽立たせています。床革(銀のついた表面部分を他の用途にとった残り部分)を使ったものを床ベロア、銀の付いたままベロアにしたものを、銀付きベロアといいます。
他にも柄をプリントしたもの等々、いろいろな種類、厚み(厚度)、硬さ(あじ)のものがありますが。革それぞれの特性を知って、靴のデザインに合わせた素材をを選定することは、靴の機能や品質を実現するため大変重要なことです。